人口減少や少子高齢といった日本経済を取り巻く大きな時代の変化の波にのまれ、多くの企業が成長戦略の立案に苦慮する中、25期連続で黒字決算を達成し、直近では飛躍的な収益増を遂げる企業が成増(正確には旭町)にあります。
企業の名は「株式会社トーレイ」。
SDGsの機運の高まりの後押しを受け急成長を遂げる、フードロスというニッチな分野に特化した商社です。
今回は、株式会社トーレイの企業経営の秘密に迫るべく、代表取締役の齋藤様、取締役(マーケット部門統括)の深野様、また、スタッフの皆様のご厚意で、小学生の子供と一緒にインタビューをさせて頂きました。
〇株式会社トーレイの本社を訪問
株式会社トーレイを訪れたのは2024年1月中旬でした。指定された旭町の住所に到着すると、目の前には少し大きな目の一軒家がありました。
ここが株式会社トーレイの本社です。
ここ数年、年商が飛躍的に伸びており年商15億円で従業員約30名を抱える企業と聞いており、立派なオフィスを構えていると思い込んでいたことから、(失礼ながら)その外観にビックリしました(ただ、このオフィスこそが株式会社トーレイの成長の秘訣だと後で分かりました)。
〇株式会社トーレイの歴史
株式会社トーレイは1999年3年に旭町のアパートの一室で業務用、市販用の食品卸売業として創業しました。
創業から2年後の2001年に大手乳業メーカーより賞味期限の近い季節商品の販売依頼を受けたことを機に、「訳あり商品」の販売に主軸を移しました。駆け出しの食品商社として並みいるライバル商社に対抗するためにもニッチ産業であり、扱いの難しい「訳あり商品」に勝機を見出しました。
当時は「訳あり商品」を扱う業者はまだまだ珍しく、加えて、扱う業者さんも「訳あり」ということがあったそうです。
例えば、(十年ほど前)異物混入を懸念して廃棄依頼した商品を産業廃棄物処理業者が偽ってスーパーに横流しした事件がありましたが、処分を依頼する側にとっては信頼のおける業者に依頼できることは大きな価値を生みます。
そのような業界事情を背景に、株式会社トーレイは創業から25年に亘って「訳あり商品」を扱う食品商社としてコンプライアンスを遵守しながら処分する側の細かいニーズを汲み取りながら実績を積み重ねてきました。
〇株式会社トーレイが扱う「訳あり商品」
株式会社トーレイが扱う「訳あり商品」は多岐にわたりますが、その一例をご紹介させて頂きます。
例えば、「訳あり商品」として取引先の大手コンビニから「黒毛和牛を使用した高級弁当」に使用する和牛の案件を受注します。肉はそのまま販売することはできないため加工した上で商品名を隠して提供することが条件であり、また、賞味期限も僅かでした。こうした、細かい条件のついた「訳あり商品」を如何にさばくのかは株式会社トーレイの営業部の腕の見せどころです。この時は、大手企業の社員食堂にて黒毛和牛カルビ重850円として提供されたそうです。
他にも、様々なフードロスが発生します。
輸送の過程で箱が壊れてしまった「乱箱」、缶がへこんでしまった「凹缶」、スパゲッティのタンパク質変性で色が悪くなってしまった「クラック」、ハムやベーコンの切れ端「切り落とし、端材」、商品開発の失敗に伴う「企画外れ」など、様々な「訳あり商品」が株式会社トーレイには持ち込まれます。
仕入れた商品を営業部門がスーパーやお弁当屋、飲食店等に卸していきます。最近では、SDGsの機運の高まりを受けて、フードロスが一つのブランドとして認知されるようになったこともあり、大手デパートの催事にも商品を卸すことがあるそうです。
ちなみに、こうした商品は一度試食して品質を確かめるそうですが、営業部門の若手がこうした役割を担うことが多く、株式会社トーレイに入社すると食事には困らないそうです。
〇取引先1,000社にのぼる巨大フードロスネットワークのハブ
株式会社トーレイは、「訳あり商品」をお客様の声を大切にしながら取り扱うことで信頼を得て、取引先が拡大していったそうです。そして、2006年9月に業務拡張に伴い、近隣に売りに出ていた印刷会社の社屋を中古で購入して今の本社として利用を始めました。これが、冒頭で紹介した株式会社トーレイの本社となります。
現在では、取引先は1,000社にのぼります。
主要仕入れ先は、伊藤忠商事、日本ハム、伊藤ハム、マルハニチロ、キョクヨー、三菱食品等となっており、コンプライアンス意識の強い大手総合商社や商品メーカーが名を連ねています。
仕入れ先から受け入れた「訳あり商品」は、量販店、外食店、産業給食(社食等)、ネット販売、全国の中央卸売場などに販売しています。
こうした実績と信頼を重ね、現在では年商15億円、従業員30名を抱えるフードロスというニッチな業界ではトップ企業としての地位を確立します。
〇株式会社トーレイの成長の3つの秘訣
ここまでで株式会社トーレイの歴史や事業概要について紹介してきましたが、株式会社トーレイが成長を遂げている秘訣とは何でしょうか。
実際に筆者がヒアリングさせて頂く中で感じた3つの秘訣を紹介させて頂きます。
⓵近江商人もビックリの「四方よし」のビジネスモデル
第一に時代のニーズにフィットした優れた「四方よし」のビジネスモデルがあります。
近江商人の経営哲学として「三方よし」という言葉が知られています。
「三方よし」とは「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会にこうけんできてこそよい商売といえる」という考え方で、一般には「売り手によし、買い手によし、世間によし」という言葉で知られています。
こうした三方よしの考え方を株式会社トーレイに当てはめると、
「売り手によし」とは「株式会社トーレイが収益をあげ、そのステークホルダーに裨益すること」です。
「買い手によし」とは「販売先の小売店やお客様が安価で質の高い商品を購入すること」です。
「世間によし」とは「フードロスに伴う食料の廃棄が減少すること」となります。
加えて、実は株式会社トーレイのビジネスでは「株式会社トーレイへ「訳あり商品」を卸す食品会社」も大きな恩恵があります。
コストをかけて廃棄しなくてはならない食品が売り上げに繋がるという生産者のメリットです。また、想いを込めて製造した商品が無造作に破棄されてしまうのは心が痛い部分もあり、何らかの形で活用してもらえることは生産者にとってはありがたいことだったりもします。
ちなみに、どうしても販売出来ない商品については動物の飼料になることもあるそうです。
つまり、株式会社トーレイの流通の上流にある仕入れ先である「食品会社」の恩恵を考えると、近江商人の「三方よし」ではなく「四方よし」となります。
この「四方よし」という近江商人もビックリな究極のビジネスモデルが株式会社トーレイが飛躍的な成長を遂げる一つ目の理由です。
【コラム】城北屋という新しい挑戦
株式会社トーレイは自社の収益を地域社会への還元にもつなげています。
2023年12月に株式会社トーレイは城北屋をオープンしました。これまでは、株式会社トーレイは商社として大きなロットで商売をする卸売業を生業としてきましたが、「訳あり商品」を地域の方々に安価に提供できるような場所を作りたいとの想いから小売りビジネスをスタートさせました。
こうした背景には、昨今の物価高騰があります。
物価は上がる一方で、賃金はなかなか上がらず、家計消費における食費の占める割合を示すエンゲル係数は上昇しています。そのため、一般消費者は安価で食品が購入できるディスカウントストアを利用するようになっています。
株式会社トーレイとしても、自社で扱う安くて品質の高い「訳あり商品」を地域のみなさんにも購入いただける場を作りたいとの想いから、城北屋をオープンしました。
食品卸しのようにパソコンで大きなロットをさばくビジネスではなく、一日10時間お店にたち続けて一つ数百円の商品を販売することは、収益性という意味では決して効率的なビジネスではないのですが、地域の皆様というステークホルダーへの還元という意味でスタートしたそうです。
自社の収益を将来の投資や株主、従業員といったステークホルダーに還元する企業は多い一方で、地域社会へ積極的に還元する株式会社トーレイの取組はとても素敵だと感じました(筆者も安くて質の良い食材を求めて頻繁にお店を利用させて頂いています)。
②他社には真似できないニッチ産業での実績と信頼
成長の秘訣の2つ目は「大手には真似できないニッチ産業での実績と信頼」です。
もし、「四方よし」で表現される優れた事業モデルであれば競合となる企業も台頭してくるはずです。
しかしながら、大手商社も他の食品を扱う中堅商社もフードロスを扱う事業にはなかなか手が出ません。
大手商社は高い収益性が求められるため、食品ロスという多様でロットの少ない商品を扱うビジネスには参入しづらい事情があります。
また、他の食品を扱う中堅商社も、多様で様々な条件のついた「訳あり商品」を短時間でさばききるノウハウの蓄積も販路もありません。
フードロス業界というニッチな分野において25年の実績と信用を積み重ね、1,000社の取引先を持つ株式会社トーレイのビジネスには大手商社を含め他社が参入しづらいことが二つ目の要因となります。
【コラム】財務内容の健全性
株式会社トーレイは信頼と実績を重んじる会社です。それは取引先との実際の取引を通じてもそうですが、加えて財務健全性も大切にしています。
株式会社トーレイは内部留保を借り入れの返済に当てることで現在では無借金経営となっており、銀行からの借入はありません。
財務の健全性を示す自己資本比率(自己資本÷総資本)は74.3%、短期的な支払い能力を示す流動性比率(流動資産÷流動負債)は318%と非常に安定した経営を行っています。
こうした財務健全性も株式会社トーレイが多くの取引先から信頼を得る一助となっています。
ちなみに、財務内容もよく、収益性も高く(ROE480%)、将来性を兼ね備えたビジネスを行う株式会社トーレイには様々な銀行がヒアリングに訪れるそうです。そして、ヒアリング内容は銀行の本店で優れたビジネスモデルとして紹介されたり、銀行の営業員が食品関連の取引先に株式会社トーレイを紹介したりするそうです。
そんな社会的にも注目される株式会社トーレイにはM&Aの声がひっきりなしに来るそうです。
③「もったいない」精神に基づく経営
株式会社トーレイの成長を支える秘訣の最後の一つとして、経営における「もったいない」精神の徹底があります。
株式会社トーレイは25期連続で黒字を出しています。赤字は一度もありません。
これは、経営において徹底的に「もったいない」精神を発揮し、費用削減に取り組んでいった結果だと言えます。
例えば、株式会社トーレイは社用車は全て中古の軽自動車ですし、社屋は印刷会社の中古です。また、事務所の机や椅子も中古です。
また、人財についても「もったいない」精神を発揮しています。
株式会社トーレイで働く社員の半数は高齢者の方々です。食品会社や商社等を退職した業界でキャリアのある人財と個人事業主として契約することで、やる気と能力のある高齢者の方々が自分のペースで活躍する場を作っています。
中には、90歳の営業担当もいらっしゃるそうですが、現役でバリバリと働いておられ、未だに息子さんやお孫さんを含めた三世代で一番稼いでいるそうです(息子さんは既に定年退職されているそうです)。
ただ、「もったいない」精神を発揮するといっても、本当に必要なものにはお金を惜しみません。
例えば、売掛金に対する信用保証の保険料を毎年数百万円支払っているそうです。取引先が倒産した場合に、従業員が貸し倒れリスクに一喜一憂したり、債権回収に時間を費やしたりと不安な想いをするくらいなら、毎年多額の保険料を払ってでも従業員が安心して取引ができるような環境を整えています。
こうした、本当に必要なものにお金をかけ、必要ではないものにはお金を一切かけないという「もったいない」精神の徹底が株式会社トーレイの経営の秘訣の3つ目です。
〇子供からの質問「経営におけるもったいないこと」
小学生の子供からも代表取締役の齋藤様に質問をさせて頂きました。
「会社を経営する中で何が一番もったいないと感じますか?」
「必要のないものにお金をかけ、本当に必要なものにお金をかけないことが一番もったいないと思うよ。ガラス張りの事務所、ベンツといった見栄や見栄えに人は価値を感じることがあるけど、それが事業にとって本当に必要かというと、そんなことはない。本当に実力のある人はきらびやかな見た目ではなくオーラで分かる。企業を経営する上で、大切なことは感情ではなく理性で判断すること。感情に流されると本当に必要なものが見えなくなってしまうからね。それが一番もったいないと思うよ。」
ここにも経営における徹底した「もったいない」精神の発揮がありました。
〇最後に~日本人が忘れかけている「もったいない」精神~
今回のインタビューを通じて感じたことは、「四方よし」という優れたビジネスモデルや、25期連続黒字という実績もすごかったのですが、それ以上に経営理念を徹底することの大切さが最も印象的でした。
「もったいない」という経営理念を掲げ、ビジネスモデルを通じてフードロスというまだ食べられる食品の「もったいない」を価値に変えるだけではなく、まだまだ働ける高齢者の方々の「もったいない」を人財に変え、そして、まだまだ使える中古の印刷会社の社屋をオフィスに使い続ける姿は、代表取締役の齋藤様の経営者としてのブレの無さを感じました。
インタビューの中で代表の齋藤様がおっしゃられた言葉が印象的でした。
「最近のコンピューターのことはよく分からないけど、「勘ピューター」には自信があるよ。」
きっと、「本当に必要なものにだけお金を使う」というぶれない企業経営者としての価値感(勘?)が、25年間にわたる黒字経営と近年の急成長を実現した「勘ピューター」として社長の頭の中で高速で動いているのではないかと感じました。
昨今では、GDPに代表されるように経済規模が一つの重要なマクロ経済指標として認識されているように感じます。ただ、GDPの成長を追いかければ、それだけ経済を回す必要が生じ、大量生産・大量消費の傾向が強くなります。
しかし、本来日本には「もったいない」というとても大切な考え方があったはずです。
日本最古の書物である古事記には「八百万の神」という表現が出てきます。これは、自然や日常生活の中の様々な事物には神が宿るという日本独特の考え方です。お米一粒一粒にも神様が宿っていると教えられてきました(筆者も食べ物を残すともったいないお化けが出ると祖母に教えられたものです)。
しかし、GDP成長を追い求めれば、お米は肥料と農薬をふんだんに使用して大量生産し、コンビニで大量のお弁当やおにぎりを製造・販売され、グルグルと経済は回っていきます。こうした経済を回す手段としてのプロセスにおいて廃棄されていくお米の神様は、どんな気持ちなのでしょうか。
昨今は物質的な豊かさを当たり前に享受するあまり、物の大切さが分からなくなっているのかもしれません。もしくは、本当の物の価値が見えていないのかもしれません。
今回の株式会社トーレイにインタビューをさせて頂く中で、「本当に必要なもの」、「本当に価値のあるもの」という代表取締役の齋藤様の言葉を繰り返し聞く中で、日本人が高度成長期に忘れていった大切な「もったいない」という価値感の大切さを改めて感じました。
きっと、日本人が忘れかけている「もったいない」精神を徹底する優れた経営者、そして、それを実践するスタッフの存在が、多くの人や企業が引き寄せることこそ、株式会社トーレイの成長の最大の要因なのではないでしょうか。
最後になりますが、代表取締役の齋藤様、取締役(マーケット部門統括)の深野様、また、スタッフの皆様、貴重なお話を伺わせて頂きましてありがとうございました。